リストカットは一見すると「死にたい気持ち」の表れのように見えるかもしれませんが、必ずしもそうとは限りません。
強いストレスや不安、孤独感の中で「自分の存在を確認したい」「気持ちを落ち着けたい」といった心理から行われることもあります。
しかし、繰り返すうちに習慣化し、心身に深刻な影響を与える可能性があります。
本記事では、リストカットの原因・対処法・治療・背景にある病気について網羅的に解説し、正しい理解とサポートの第一歩を紹介します。
心の病気は放置すると重症化する恐れがあるため、早期の治療をお求めの方は当院までご相談ください。
リストカットとは?自傷行為の基本的な理解
リストカットは「自傷行為」の一つであり、主に腕や手首を刃物などで傷つける行為を指します。
一般的に「死にたいから」行うと思われがちですが、実際には「気持ちを落ち着けたい」「つらさを外に表現したい」といった心理が背景にある場合も多いのが特徴です。
自傷行為を正しく理解することは、本人の苦しみに寄り添い、適切な支援につなげる第一歩となります。
ここでは、自傷行為の定義や種類、行われやすい年齢層や背景、さらに「死にたい」以外の理由で行われるケースについて解説します。
- 自傷行為の定義と種類
- リストカットが行われやすい年齢層と背景
- 「死にたい」より「生きたい」が背景にあるケースも
それぞれの詳細について確認していきます。
自傷行為の定義と種類
自傷行為とは、自分の体を意図的に傷つける行動を指し、代表的なものにリストカットがあります。
他にも、太ももやお腹などを切る「カッティング」、皮膚を繰り返し引っかく、タバコなどで火傷を作る、頭を打ちつけるといった行為も含まれます。
これらは「自分を傷つけることで心の痛みを和らげたい」「不安や怒りをコントロールできない」という心理的背景を持つことが多いです。
自傷行為は命を絶つ目的ではない場合も多いですが、結果的に命に関わる危険を伴うこともあるため、注意が必要です。
リストカットが行われやすい年齢層と背景
リストカットは特に思春期から若年層にかけて多く見られます。中高生や大学生などの年代は、心が不安定になりやすく、人間関係や学業、将来への不安など強いストレスを抱えやすい時期です。
また「自分の存在価値を確かめたい」「誰かに気づいてほしい」といった承認欲求も影響しています。
ただし、大人になってから行うケースもあり、背景には過労や人間関係のトラブル、過去のトラウマなどが関係している場合もあります。
年齢を問わず、心のSOSとして表れることがあるのです。
「死にたい」より「生きたい」が背景にあるケースも
リストカットは一見「死にたい」という強い自殺願望の表れに思えるかもしれません。
しかし実際には「生きている実感を得たい」「つらい気持ちを誰かに分かってほしい」といった、むしろ「生きたい」という思いが背景にある場合も少なくありません。
痛みや血を見ることで一時的に感情が落ち着いたり、自分の存在を確認できると感じる人もいます。
ただし、これが習慣化すると依存的になり、心身に深刻な悪影響を及ぼすリスクが高まります。
そのため、リストカットは本人のSOSとして受け止め、支援につなげることが重要です。
リストカットの原因【心理と背景】
リストカットにはさまざまな心理的背景があり、単純に「死にたい」という気持ちだけで説明できるものではありません。
強いストレスを和らげる手段として行う人もいれば、孤独感や自己嫌悪、過去のトラウマが関係している場合もあります。
また、感情をコントロールできず衝動的に行ってしまうケースも少なくありません。
ここでは、リストカットにつながる代表的な心理と背景を5つの観点から解説します。
- 強いストレスや不安を和らげたい心理
- 孤独感や「誰かに気づいてほしい」という思い
- 自己嫌悪や罪悪感から自分を罰する心理
- 感情のコントロールが難しい(衝動性)
- トラウマや過去の虐待経験
それぞれの詳細について確認していきます。
強いストレスや不安を和らげたい心理
リストカットを行う大きな理由の一つは、強いストレスや不安を一時的に解消したいという心理です。
切ることで痛みを感じたり血を見ることで「気がまぎれる」「心が落ち着く」と感じる人もいます。
これは脳内でエンドルフィンという物質が分泌され、一時的に安心感を得られることが影響しています。
しかし効果は一時的であり、根本的な解決にはつながりません。むしろ繰り返すことで依存的になり、さらに深刻な問題を引き起こすリスクがあります。
孤独感や「誰かに気づいてほしい」という思い
リストカットは「誰にも理解されない」「自分は孤独だ」という気持ちから生じる場合もあります。
人に言えないつらさを抱えているとき、「傷を見せることで誰かに気づいてほしい」という思いが行動に現れることがあります。
必ずしも「注目されたい」という単純な動機ではなく、「本当は助けを求めたい」というSOSのサインであるケースが多いのです。
孤独感が強いと自己肯定感が低下し、ますますリストカットに依存してしまう悪循環に陥りやすくなります。
自己嫌悪や罪悪感から自分を罰する心理
「自分はダメな人間だ」「失敗して迷惑をかけた」という自己嫌悪や罪悪感が強いと、自分を罰するようにリストカットを行うことがあります。
これは「自分を傷つけることで罪を償いたい」という心理が背景にあるケースです。
一時的に気持ちが落ち着くこともありますが、根本的な自己否定感は解消されず、繰り返すことでますます自己嫌悪が強まります。
この悪循環を断ち切るには、心理療法やカウンセリングで自己認識を見直すことが必要です。
感情のコントロールが難しい(衝動性)
怒りや不安、悲しみといった感情をうまくコントロールできない人は、そのエネルギーを自分に向けてしまうことがあります。
特に感情の起伏が激しい場合、衝動的にリストカットをしてしまうケースが少なくありません。
これは一時的な「感情の逃げ道」として機能しているのです。
しかし衝動的な行動はリスクが高く、深刻なケガや命の危険につながる可能性があります。
感情調整の方法を学ぶことが、再発防止のために重要です。
トラウマや過去の虐待経験
過去にいじめや虐待、家庭内不和といったトラウマを抱えている人は、その苦しみを抱えきれずリストカットに至ることがあります。
過去の体験による心の傷が「自己否定」や「不安感」となって残り、自分を傷つける行為で表現されるのです。
特に幼少期からの心理的・身体的虐待は深い影響を与え、大人になってからも自傷行為という形で表れることがあります。
この場合、トラウマを乗り越えるための専門的な治療やサポートが必要です。
リストカットと関係が深い病気
リストカットは単なる一時的な行動ではなく、背後に心の病気が潜んでいることが少なくありません。
強い不安や孤独感を抱える中で自傷行為に至るケースが多く、うつ病や境界性パーソナリティ障害、PTSD、摂食障害、不安障害などとの関連が指摘されています。
これらの病気があると感情のコントロールが難しくなり、自分を傷つける行為に依存してしまうこともあります。ここでは、リストカットと特に関係が深い代表的な病気を5つ解説します。
- うつ病(気分の落ち込みと自責感)
- 境界性パーソナリティ障害(感情の不安定さ)
- PTSD(心的外傷後ストレス障害)
- 摂食障害との関連
- 強い不安障害や強迫性障害
それぞれの詳細について確認していきます。
うつ病(気分の落ち込みと自責感)
うつ病は、リストカットとの関連性が特に高い病気の一つです。
強い気分の落ち込みや意欲の低下、自分を責める思考が続くことで、「自分には価値がない」「生きている意味がない」と感じやすくなります。
その結果、心の痛みを和らげたり、自分を罰する目的でリストカットを行うケースが少なくありません。
うつ病に伴う自傷行為は、自殺リスクの高さとも関わっており、軽視できない危険性があります。
長く気分の落ち込みが続く場合は、専門的な診断と治療が不可欠です。
境界性パーソナリティ障害(感情の不安定さ)
境界性パーソナリティ障害(BPD)は、感情の波が激しく、人間関係が安定しにくい特徴を持つ病気です。
強い怒りや不安、孤独感を抱えやすく、感情をコントロールできないときにリストカットをしてしまうことがあります。
また「見捨てられる不安」が強く、人に助けを求めるサインとして自傷行為が現れるケースもあります。
BPDのリストカットは衝動的に行われることが多く、繰り返しやすい傾向があるため、専門的な治療や周囲の理解が不可欠です。
PTSD(心的外傷後ストレス障害)
PTSDは、過去の強いトラウマ体験(虐待・暴力・災害・事故など)によって心に深い傷を負い、その記憶が繰り返しよみがえる病気です。
フラッシュバックや過覚醒、不安感が強く、自分では感情を抑えられない状況が続く中で、自傷行為としてリストカットを行う人もいます。
これは「心の痛みを身体の痛みに置き換えることで楽になりたい」という心理が背景にあります。
PTSDに伴う自傷行為は長期化しやすいため、専門的なカウンセリングや治療が重要です。
摂食障害との関連
摂食障害(拒食症・過食症など)を抱える人の中にも、リストカットを行うケースがあります。
摂食障害は自己否定感や強い不安、コントロール欲求が背景にある病気であり、自傷行為と共通する心理的基盤があります。
食事をコントロールすることと同じように、自分の体を傷つけることで感情をコントロールしようとするのです。
摂食障害とリストカットが併発すると心身への負担が非常に大きくなるため、専門医による包括的な治療が求められます。
強い不安障害や強迫性障害
不安障害や強迫性障害を持つ人は、過剰な不安や恐怖に押しつぶされそうになることがあります。
その強い緊張や不安を一時的に和らげるために、リストカットを選択してしまうことがあります。
強迫性障害の場合、「こうしなければ安心できない」という強い思い込みが行動化し、自傷行為に至るケースもあります。
これらの病気は本人の意思だけでコントロールするのが難しく、適切な治療や支援が必要です。放置すると悪化するため、早めの相談が大切です。
リストカットの危険性とリスク
リストカットは一時的に心を落ち着ける手段として行われることがありますが、決して安全な行為ではありません。
身体的にも精神的にも大きなリスクを伴い、放置すれば深刻な問題へと発展する可能性があります。
特に、後遺症や感染症、周囲との関係悪化、依存的な習慣化、自殺リスクの上昇など、多方面に影響を及ぼします。ここでは、代表的な4つの危険性について詳しく解説します。
- 身体的な後遺症や感染症のリスク
- 周囲との関係悪化や孤立
- 依存的に繰り返してしまう習慣化の恐れ
- 自殺リスクとの関連性
それぞれの詳細について確認していきます。
身体的な後遺症や感染症のリスク
リストカットは皮膚や血管を傷つける行為であるため、傷跡が残ったり神経にダメージを与えるなど、身体的な後遺症を引き起こす可能性があります。
また、清潔でない器具を使うことで細菌感染や破傷風、肝炎などの感染症を引き起こすリスクもあります。
一度できた傷跡は完全に消えることが難しく、将来的に見た目のコンプレックスや心理的負担になることも少なくありません。
身体を傷つけることで得られる一時的な安心感と引き換えに、大きな代償を伴う危険な行為だといえます。
周囲との関係悪化や孤立
リストカットは本人だけでなく、周囲との人間関係にも悪影響を及ぼします。家族や友人は心配し、どう接すればよいか分からず距離を置いてしまうこともあります。
また「迷惑をかけているのでは」という本人の思い込みが孤独感を強め、ますます人との関わりを避けるようになるケースもあります。
こうして孤立が深まることで、さらに自傷行為に依存してしまうという悪循環に陥りやすくなります。
社会的つながりを失うことは、心の回復を妨げる大きな要因になります。
依存的に繰り返してしまう習慣化の恐れ
リストカットは一度経験すると「切れば楽になる」という思考が強化され、依存的に繰り返してしまうことがあります。
脳内で分泌されるエンドルフィンにより一時的に安堵感を得られるため、その快感を求めて習慣化しやすいのです。
しかし、その効果は一時的で、根本的な解決にはなりません。
むしろ繰り返すことで傷が深くなり、行為自体をエスカレートさせてしまう危険があります。
リストカットが習慣化すると、自分の意思だけでやめることが難しくなり、専門的な治療が必要となります。
自殺リスクとの関連性
リストカット自体は必ずしも「死にたい」という意図で行われるわけではありません。
しかし、自傷行為を繰り返すうちに「生きている意味がない」「いっそ死んだほうが楽だ」と考えるようになり、自殺リスクが高まることがあります。
特にうつ病や境界性パーソナリティ障害などの精神疾患が背景にある場合、リストカットと自殺企図は密接に関連しています。
そのため、軽視せず「SOSのサイン」として受け止め、早急に専門機関につなげることが大切です。
リストカットへの対処法【自分でできること】
リストカットは一時的に心の苦しみを和らげる行為ですが、根本的な解決にはなりません。
自分でできる小さな工夫を取り入れることで、衝動を抑えたり心を落ち着けることが可能です。
ここでは、リストカットの代わりに実践できる具体的な対処法を5つ紹介します。これらはすぐに完璧にできる必要はなく、少しずつ自分に合う方法を見つけることが大切です。
- 気持ちを書き出す・声に出す
- 深呼吸・運動・音楽などの代替行動
- 信頼できる人に気持ちを打ち明ける
- 安全を確保する工夫(道具を手元に置かない)
- 緊急時は迷わず相談窓口へ
それぞれの詳細について確認していきます。
気持ちを書き出す・声に出す
強いストレスや不安を感じたとき、その気持ちを心の中に溜め込むとリストカットの衝動が強くなりやすくなります。
その代わりに、紙に気持ちを書き出したり、声に出して吐き出すことは有効な対処法です。
自分の気持ちを可視化・言語化することで、感情を客観的に整理でき、気分の落ち着きにつながります。
「怒っている」「つらい」と一言でも書くことから始めるだけで効果があります。自分の感情を認めることは、リストカット以外の表現方法を育てる第一歩です。
深呼吸・運動・音楽などの代替行動
リストカットの衝動が強まったとき、深呼吸や軽い運動、音楽を聴くなどの代替行動が役立ちます。
深呼吸は自律神経を整え、不安を和らげる効果があります。
また、ウォーキングやストレッチなど体を動かすことは、ストレス発散や気分転換につながります。
音楽は気持ちを切り替える助けとなり、感情の浮き沈みを緩和します。自分に合った方法を複数用意しておくと、衝動を感じたときに「まず試してみよう」と思える選択肢が増えます。
信頼できる人に気持ちを打ち明ける
一人で抱え込むと苦しさが増してしまい、リストカットに走るリスクが高まります。
信頼できる家族や友人に「つらい」「苦しい」と気持ちを打ち明けることは大切です。
話すことで共感や安心感を得られ、「自分は一人ではない」と感じられることが回復の力になります。
相手に解決策を求める必要はなく、「聞いてもらうだけ」で十分効果があります。話すのが難しい場合は、メールやメッセージを使うのも一つの方法です。
安全を確保する工夫(道具を手元に置かない)
衝動が強まるときに危険な道具が近くにあると、リストカットに至りやすくなります。
そのため、刃物やカッターなどを手元から離す工夫をすることが重要です。
例えば、普段使う道具は人目のある場所に置いたり、信頼できる人に預けるのも有効です。
また、代わりにストレス解消グッズを身近に置いておくことで、衝動を別の行動に切り替えやすくなります。物理的にリスクを減らす工夫は、リストカットを防ぐ大切な一歩です。
緊急時は迷わず相談窓口へ
強い衝動に襲われ「自分を傷つけてしまいそう」と感じたときは、迷わず緊急の相談窓口を利用することが大切です。
日本では「#7111(こころの健康相談統一ダイヤル)」や「#7110(警察相談専用電話)」、地域の精神保健福祉センターなど、すぐに相談できる窓口があります。
また、緊急性が高い場合はためらわず119番や救急を利用してください。
一人で抱え込むよりも、誰かに助けを求めることが安全確保につながり、命を守る行動になります。
リストカットの治療法
リストカットは単なる「癖」や「意思の弱さ」ではなく、心の病気や深い心理的背景が関わっていることが多いため、専門的な治療や支援が必要です。
治療には医療機関での診断や薬物療法、心理療法、さらには入院やデイケアといった治療環境の活用が含まれます。
また、本人を支える家族や周囲のサポートも回復に欠かせない重要な要素です。ここでは、代表的な治療法を4つの観点から紹介します。
- 精神科・心療内科での診断と薬物療法
- カウンセリング・心理療法(認知行動療法・DBTなど)
- 入院やデイケアなどの治療環境の活用
- 家族療法や周囲のサポートの重要性
それぞれの詳細について確認していきます。
精神科・心療内科での診断と薬物療法
リストカットが繰り返される場合、まずは精神科や心療内科で診断を受けることが大切です。
背景にうつ病や不安障害、境界性パーソナリティ障害などがあることが多いため、適切な診断に基づく治療が必要になります。
症状に応じて、抗うつ薬や抗不安薬、気分安定薬などが処方されることがあります。
薬物療法は感情の波を和らげ、衝動性を抑える効果が期待できる一方、薬だけに頼るのではなく心理療法と組み合わせて進めることが効果的です。
カウンセリング・心理療法(認知行動療法・DBTなど)
リストカットの治療において中心となるのがカウンセリングや心理療法です。
認知行動療法(CBT)では「自分を否定する思考」や「衝動的な行動」を見直し、より適切な思考・行動パターンを学びます。
また、境界性パーソナリティ障害の治療に効果があるとされるDBT(弁証法的行動療法)は、感情のコントロール法やストレス対処法を習得するのに有効です。
心理士やカウンセラーと継続的に関わることで、リストカットに代わる新しい対処法を身につけることが可能になります。
入院やデイケアなどの治療環境の活用
自傷行為が頻繁で危険性が高い場合や、自宅での生活が困難な場合には入院治療が必要になることもあります。
入院することで安全が確保されるだけでなく、集中的な治療を受けられる環境が整います。
また、外来通院と並行して「デイケア」や「グループ療法」を活用することで、社会とのつながりを保ちながら回復を目指せます。
治療環境の選択は本人の状態に応じて医師と相談しながら決めることが重要です。
家族療法や周囲のサポートの重要性
リストカットの回復には、本人だけでなく家族や周囲の理解と協力も欠かせません。
家族療法では、本人の気持ちを否定せず受け止め、どのように支えるかを一緒に学びます。周囲が「やめなさい」と責めたり無理に行動を制止しようとすると、かえって孤立感を深めることがあります。
大切なのは「あなたの気持ちを理解したい」という姿勢を示すことです。
家族自身もカウンセリングや相談機関を活用しながら、無理のない形でサポートを続けることが回復を後押しします。
リストカットがやめられないときの工夫
リストカットは一度始めると「やめたいのにやめられない」という悪循環に陥りやすい行為です。
脳内で一時的に安堵感を得られるため依存性があり、本人の意志だけで克服するのは非常に難しい場合があります。
そのため、完全にやめることを目標にするのではなく、「衝動を弱める」「代わりの方法を身につける」など段階的な工夫が有効です。ここでは、リストカットをやめられないときに役立つ3つの工夫を紹介します。
- 代替行動を習慣化する
- 衝動が出やすい場面を記録して把握する
- 支援者や専門家と「やめられない気持ち」を共有する
それぞれの詳細について確認していきます。
代替行動を習慣化する
リストカットをやめられないときには、衝動を感じた際に代わりにできる行動を習慣化することが有効です。
例えば、氷を握る、ゴムを手首にはじく、クッションを叩く、強く紙に文字を書くといった行為は、身体感覚を通じて気持ちを切り替える助けになります。
また、深呼吸やストレッチ、音楽鑑賞などのリラックス行動も代替手段になります。
大切なのは「切りたい」という気持ちが起きたとき、すぐに試せる方法を複数用意しておき、習慣として身につけることです。
衝動が出やすい場面を記録して把握する
リストカットの衝動は、特定の状況や感情に結びついていることが多いため、それを記録して把握することが大切です。
例えば「夜一人でいるとき」「人間関係のトラブルがあったとき」など、衝動が強くなる場面を日記やメモに残すことで、自分のパターンを客観的に理解できます。
記録を重ねることで「この状況では危ない」と事前に気づけるようになり、代替行動や相談につなげやすくなります。
衝動を未然にコントロールする第一歩として有効な方法です。
支援者や専門家と「やめられない気持ち」を共有する
「やめたいけれどやめられない」という気持ちを一人で抱え込むことは、衝動を強めてしまう原因になります。
そのため、信頼できる家族や友人、カウンセラー、医師などの支援者と率直に共有することが重要です。
「やめられない自分」を責めずに話すことで、理解や共感を得られ、安心感につながります。
また、専門家はリストカットの背景にある心理や病気を踏まえたうえで、効果的な治療法や対処法を提案してくれます。
孤立せず支援を受けることが、回復への大きな一歩です。
リストカット跡とその対応
リストカットを繰り返すと、身体に残る傷跡が大きな心理的負担になることがあります。周囲の視線が気になったり、自分自身が過去を思い出して苦しくなる場合も少なくありません。
跡をどうケアし、どのように向き合うかは回復の過程で重要なテーマです。
ここでは、リストカット跡が与える心理的影響や医療的ケアの方法、跡を隠す工夫とメンタルケアを両立させるポイントについて解説します。
- 跡が残ることでの心理的負担
- 医療的なケア(皮膚科・形成外科)
- 跡を隠す工夫とメンタルケアの両立
それぞれの詳細について確認していきます。
跡が残ることでの心理的負担
リストカットの跡は、本人にとって「過去のつらさ」を思い出させる存在となることがあります。
また、周囲の人に見られることで「どう思われるだろう」という不安や羞恥心を感じやすくなります。
特に夏場など肌を出す機会が増える時期には、強いストレスの原因となることもあります。
こうした心理的負担は自己肯定感を下げ、再び自傷行為に依存してしまうきっかけになる恐れがあります。
跡をどう受け止めるかを一人で抱え込まず、信頼できる人や専門家と共有することが大切です。
医療的なケア(皮膚科・形成外科)
リストカット跡を目立たなくするためには、皮膚科や形成外科での医療的ケアが有効です。
浅い傷跡であれば、保湿や美白成分を含む外用薬、レーザー治療などで改善が期待できます。
深い傷跡やケロイド化してしまった場合は、形成外科での外科的処置や皮膚移植が検討されることもあります。
医療機関での治療は完全に跡を消すことは難しいものの、外見上の負担を軽減し、心理的な安心感を得る手助けになります。
専門医と相談しながら適切な方法を選ぶことが大切です。
跡を隠す工夫とメンタルケアの両立
リストカット跡を隠す方法としては、衣服やアクセサリーを工夫するほか、医療用ファンデーションやコンシーラーを活用する手段があります。
これらは一時的に人目を気にせず生活できるサポートになりますが、跡を隠すことだけにとらわれてしまうと逆に心理的負担が強まることもあります。
そのため、外見上の工夫と並行して、カウンセリングやセルフケアによって心の回復を進めることが重要です。
「跡を隠す」ことと「心を癒す」ことを両立させることで、より前向きな生活を取り戻せるようになります。
周囲ができるサポート
リストカットをしている人に対して、家族や友人、恋人など周囲のサポートは非常に重要です。
しかし接し方を誤ると、かえって本人を追い詰めてしまうこともあります。大切なのは「責めない」「理解を示す」「一人で抱え込まない」という姿勢です。
ここでは、周囲ができる具体的なサポート方法を4つのポイントに分けて解説します。
- 否定せず「話を聴く」姿勢を持つ
- 無理にやめさせようとしない
- 専門機関への受診を優しく促す
- サポートする側も相談機関を活用する
それぞれの詳細について確認していきます。
否定せず「話を聴く」姿勢を持つ
リストカットをする人は、自分の気持ちを理解してもらえないと強い孤独感を抱いています。
そのため「なんでそんなことするの?」「意味が分からない」と否定することは避けるべきです。
大切なのは、評価やアドバイスを急がず、本人の話を最後まで聴く姿勢を持つことです。
「つらかったんだね」「話してくれてありがとう」と共感を示すことで、本人は安心して気持ちを打ち明けやすくなります。否定せず受け止めることが、サポートの第一歩です。
無理にやめさせようとしない
周囲から見ると「今すぐやめてほしい」と思うのは当然ですが、強引に「やめなさい」と伝えるのは逆効果になります。
リストカットは本人にとって「心の苦しさを和らげる方法」であり、強制的に奪うとさらなる不安や孤独を招く恐れがあります。
無理にやめさせようとするのではなく、「一緒に別の方法を探してみよう」と寄り添う姿勢を見せることが大切です。
本人のペースを尊重しながら、少しずつ安全な方法へ移行していくことが望ましいサポートの形です。
専門機関への受診を優しく促す
リストカットを繰り返す場合、専門機関での診断や治療が必要となります。
しかし本人は「病院に行くのは怖い」「否定されるのでは」と不安を抱いていることが多いため、強制するのではなく優しく促すことが大切です。
「一緒に行こうか」「相談するだけでも安心できるかもしれない」といった声かけは、本人が一歩を踏み出すきっかけになります。
専門家のサポートを受けることは回復に不可欠であり、周囲が背中を押してあげることが重要です。
サポートする側も相談機関を活用する
リストカットをしている本人を支える家族や友人も、強い不安や疲労を抱えやすくなります。
「どう接すればいいのか分からない」「自分が支えきれない」と感じるのは自然なことです。
そのため、周囲の人自身もカウンセリングや地域の相談窓口、支援団体を利用することが推奨されます。
サポートする人が安心できる環境を持つことで、長期的に支え続ける力を維持できます。本人だけでなく周囲も支援を受けることが、回復に向けた大切な一歩です。
医師に相談すべきサイン
リストカットは一時的なストレス解消や感情表現の手段として行われることがありますが、放置すると心身に深刻な影響を及ぼす危険な行為です。
特に、自傷行為が繰り返される場合や、自殺願望が伴うとき、また日常生活に支障が出ているときは、医師への相談が必要となります。ここでは、受診を検討すべき代表的なサインを4つに分けて解説します。
- 自傷行為が繰り返し続いているとき
- 自殺願望や強い希死念慮があるとき
- 学業・仕事・日常生活に支障が出ているとき
- 気分の落ち込みや不眠・食欲不振が続いているとき
それぞれの詳細について確認していきます。
自傷行為が繰り返し続いているとき
リストカットが一度きりではなく、繰り返し続いている場合は医師に相談すべき重要なサインです。
習慣化すると「切らないと落ち着かない」という依存状態に陥りやすく、自分の力だけでやめることが難しくなります。
さらに、回数を重ねるごとに傷が深くなる傾向があり、生命の危険につながるリスクも高まります。
衝動が強いと感じるときや、やめられないと悩んでいるときは、早めに心療内科や精神科を受診することが回復の第一歩です。
自殺願望や強い希死念慮があるとき
「死んでしまいたい」「消えてしまいたい」という気持ちが強くなっているときは、すぐに専門機関に相談すべきサインです。
リストカット自体は必ずしも自殺の意思を意味するわけではありませんが、強い希死念慮を伴う場合は自殺未遂や命に関わる行為に発展する危険性があります。
特に一人で抱え込んでいると危険度が高まるため、緊急時には迷わず119番や地域の救急窓口に連絡し、命を守る行動を取ることが大切です。
学業・仕事・日常生活に支障が出ているとき
リストカットの背景には、強いストレスや精神的な不調が隠れていることが多く、その影響で学校や仕事、日常生活に支障が出ることがあります。
例えば、学校に行けなくなる、仕事に集中できない、家事や日常のタスクがこなせないといった状態が続く場合は要注意です。
生活に影響が及んでいる時点で、すでにセルフケアでは解決が難しい段階に入っています。
早めに医師に相談することで、症状の悪化を防ぎ、生活リズムを取り戻す手助けが得られます。
気分の落ち込みや不眠・食欲不振が続いているとき
リストカットと同時に、気分の落ち込み、不眠、食欲不振といった症状が続いている場合も、医師に相談するサインです。
これらはうつ病や適応障害、不安障害などの精神疾患に関連している可能性があります。
特に「朝起きられない」「眠れないのに疲れが取れない」「食欲が全くわかない」などの状態が2週間以上続く場合は要注意です。
心身の不調が重なることで自傷行為がエスカレートするリスクもあるため、早めに受診して適切な治療を受けることが重要です。
よくある質問(FAQ)
Q1. リストカットをやめられないのは依存ですか?
はい、リストカットは依存性を持つ行為と考えられています。
切ることで脳内にエンドルフィンが分泌され、一時的に安心感や落ち着きを得られるため、その感覚を繰り返し求めてしまうのです。
これはアルコールや薬物と同じく「依存のサイクル」に近い特徴を持ちます。
そのため「意思が弱いからやめられない」のではなく、心理的・生理的に依存状態に陥っていることが原因です。
やめたいのにやめられないと感じたときは、自分を責めるのではなく、専門家の支援を受けながら少しずつ新しい対処法を身につけていくことが大切です。
Q2. 思春期に多いと聞きますが大人でもありますか?
リストカットは思春期から青年期にかけて多く見られる行為ですが、大人になってからも行う人は少なくありません。
思春期では人間関係や学業、将来への不安などが引き金になることが多いですが、大人の場合は仕事や家庭、経済的なプレッシャー、過去のトラウマが背景になることがあります。
また、幼少期の体験や心の傷が大人になってから再び表面化し、自傷行為という形で現れることもあります。
年齢に関係なく「心のSOS」であることに変わりはないため、早めに相談することが必要です。
Q3. リストカット跡が残ってしまった場合はどうすればいい?
リストカットの跡は、浅い傷であれば時間とともに薄くなることもありますが、深い傷は痕として残ることがあります。
見た目の問題は本人にとって大きな心理的負担となり、過去を思い出すきっかけになることもあります。
改善を希望する場合は皮膚科や形成外科での治療を検討できます。レーザー治療や外用薬、場合によっては手術的処置が行われることもあります。
また、コンシーラーや医療用ファンデーションで隠す方法も有効です。大切なのは、外見上のケアと同時に心のケアも行うことです。
Q4. 家族や友人はどう声をかければいい?
リストカットをしている人に声をかけるときは、否定や叱責を避けることが大切です。
「どうしてそんなことするの?」と問い詰めたり「やめなさい」と強く言うのは逆効果になります。
代わりに「つらかったんだね」「話してくれてありがとう」と、気持ちを理解しようとする姿勢を示すことが重要です。
また、アドバイスを急ぐのではなく、まずは「聴く」ことに徹することで本人は安心感を得やすくなります。そのうえで「一緒に病院に行ってみようか」など、受診を優しく促すことが効果的です。
Q5. 受診するとしたら何科に行けばいい?
リストカットが続いている場合や衝動が強い場合は、心療内科や精神科を受診するのが基本です。
心療内科は心身両面の不調に対応してくれるため、不眠や食欲不振など体調の変化がある人にも適しています。
精神科では、うつ病や境界性パーソナリティ障害、不安障害など精神的な病気を専門的に診断・治療してくれます。
初めて受診するのが不安な場合は、まずかかりつけ医に相談し、必要に応じて紹介状を書いてもらうのもよいでしょう。早期の受診は回復を早める大切なステップです。
リストカットは「SOSのサイン」早めの相談が回復への第一歩
リストカットは、単なる「癖」や「気まぐれ」ではなく、心が限界に達したときに現れるSOSのサインです。
背景には強いストレスや孤独感、うつ病やパーソナリティ障害などの病気が隠れていることも少なくありません。
放置すると依存的に繰り返され、心身に深刻な悪影響を与える恐れがあります。
大切なのは、本人も周囲も「自分を責めない」こと、そして早めに専門機関へ相談することです。
理解と支援があれば、リストカットに頼らない生き方を取り戻すことは十分に可能です。回復の第一歩は、勇気を出して相談することから始まります。