うつ病の治療中は、心身のエネルギーが低下し、これまでのように仕事ができなくなることがあります。「収入がなくなったらどうしよう」「治療費や生活費を払えるだろうか」といったお金の不安は、症状をさらに悪化させる要因にもなりかねません。
しかし、一人で抱え込む必要はありません。日本には、うつ病で働けなくなった時に経済的なサポートを受けられる公的な制度が複数存在します。
この記事では、あなたの状況に合わせて利用できる制度を網羅的に解説します。制度の受給条件や申請方法を正しく理解し、お金の不安を少しでも軽くして、安心して治療に専念するための一歩を踏み出しましょう。
うつ病の時に申請できるお金の制度について
【状況別】あなたが利用できる可能性のある制度
| あなたの状況 | 利用できる可能性が高い制度 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 会社員で休職中 | 傷病手当金、自立支援医療制度 | 給与の約3分の2が支給される。 |
| 退職後・再就職を目指す | 失業保険(雇用保険)、自立支援医療制度 | 働ける状態になった後、再就職までの生活を支える。 |
| 退職後・療養が長期化 | 障害年金、自立支援医療制度 | 1年6ヶ月以上症状が続いている場合、継続的な収入源となる。 |
| 医療費の負担が大きい | 自立支援医療制度 | うつ病の通院医療費の自己負担が1割に軽減される。 |
| 生活全般が困窮 | 生活保護制度、生活福祉資金貸付制度 | あらゆる制度を使っても生活が困難な場合のセーフティネット。 |
それぞれの制度には目的と対象者があり、併用できるものとできないものがあります。ここからは、各制度について詳しく解説していきます。
【在職中・休職中の方】傷病手当金
会社員や公務員の方が、うつ病が原因で仕事を休み、給与が支払われない場合に最も頼りになるのが「傷病手当金」です。
【退職後・長期療養中の方】障害年金
うつ病の初診日から1年6ヶ月が経過しても症状が改善せず、仕事や日常生活に大きな支障が出ている場合に、生活を支えるための年金が支給される制度です。
【退職後・再就職を目指す方】失業保険(雇用保険)
うつ病で退職した後、体調が回復し、働く意欲と能力があるにもかかわらず仕事が見つからない場合に、再就職までの生活を支援する制度です。
【医療費の負担を減らすたい方】自立支援医療制度
うつ病の治療は長期にわたることが多く、医療費の負担も少なくありません。この制度は、精神科への通院にかかる医療費の自己負担を軽減してくれるものです。
【生活に困窮している方】生活保護制度・生活福祉資金貸付制度
他の制度を利用してもなお生活が困難な場合に利用できる、最後のセーフティネットです。また、一時的に生活資金が必要な場合は、貸付制度の利用も検討できます。
傷病手当金|うつ病で休職中にもらえるお金

傷病手当金は、健康保険の被保険者が病気やケガのために会社を休み、事業主から十分な報酬が受けられない場合に支給される制度です。うつ病による休職も対象となり、休職中の生活を支える重要な柱となります。
傷病手当金の対象者と4つの受給条件
傷病手当金を受け取るには、以下の4つの条件をすべて満たす必要があります。
- 業務外の病気やケガで療養中であること
うつ病は業務外の病気として扱われます。(仕事が原因で発症した場合は「労災保険」の対象となります) - 仕事に就くことができない状態であること(労務不能)
医師が「労務不能」であると判断することが必要です。自己判断ではなく、医師の診断書が求められます。 - 連続する3日間を含み、4日以上仕事を休んでいること(待期期間の完成)
最初の3日間は「待期期間」といい、この期間は傷病手当金が支給されません。4日目からが支給対象となります。この3日間は有給休暇、公休、欠勤を問いません。 - 休職期間中に給与の支払いがないこと
給与が支払われていても、傷病手当金の額より少ない場合は、その差額が支給されます。
これらの条件を満たせば、パートやアルバイトの方でも、会社の健康保険に加入していれば対象となります。
傷病手当金の支給額|給料の約3分の2が目安
傷病手当金として1日あたりに支給される金額は、以下の計算式で算出されます。
【支給開始日以前の継続した12ヶ月間の各月の標準報酬月額を平均した額】÷ 30日 × (2/3)
簡単に言うと、おおよそ月給の3分の2が支給されるとイメージしておくとよいでしょう。例えば、月給30万円の方であれば、約20万円が支給される計算になります。
傷病手当金の支給期間|最長1年6ヶ月
傷病手当金が支給される期間は、支給が開始された日から通算して1年6ヶ月です。以前は暦の上で1年6ヶ月でしたが、法改正により、途中で復職した期間はカウントされず、支給されなかった期間分を後ろに繰り越せるようになりました。これにより、復職と休職を繰り返した場合でも、合計で1年6ヶ月分の手当を受け取れるようになり、より柔軟に療養計画を立てやすくなりました。
傷病手当金の申請方法と手続きの流れ
傷病手当金の申請は、一般的に本人が行いますが、体調が悪い場合は家族が代行することも可能です。多くの場合、1ヶ月ごとに区切って申請します。
ステップ1:申請書の入手
まず、ご自身が加入している健康保険組合や協会けんぽのウェブサイトから「傷病手当金支給申請書」をダウンロードするか、会社の担当部署に依頼して入手します。
ステップ2:医師による意見書の記入依頼
申請書には、医師が記入する欄(療養担当者記入用)があります。通院している心療内科や精神科の主治医に、労務不能であった期間などを証明してもらいます。
ステップ3:事業主による証明書の記入依頼
申請書には、事業主が記入する欄(事業主記入用)もあります。会社の総務や人事の担当者に、勤務状況や給与の支払い状況について証明してもらいます。
ステップ4:保険者への提出
本人記入欄、医師の証明欄、事業主の証明欄がすべて埋まったら、加入している健康保険組合や協会けんぽに提出します。提出後、審査が行われ、問題がなければ指定した口座に手当金が振り込まれます。
傷病手当金の注意点|退職後の継続給付について
うつ病の療養中にやむを得ず退職することになっても、一定の条件を満たせば、退職後も傷病手当金を受け取り続けることができます。 これを「継続給付」といいます。
【継続給付の条件】
- 退職日までに健康保険の被保険者期間が継続して1年以上あること
- 退職日に傷病手当金を受給しているか、受給できる状態(待期期間完成後、労務不能)であること
- 退職日に出勤していないこと
退職を考えている場合は、この継続給付の条件を満たせるかどうか、事前に会社の担当者や健康保険組合に確認しておくことが非常に重要です。
障害年金|うつ病が原因で長期的に働けない場合の収入源

障害年金は、病気やケガによって仕事や日常生活が著しく制限される場合に、現役世代の方でも受け取ることができる公的な年金制度です。うつ病も対象となり、傷病手当金の支給期間(1年6ヶ月)が終わった後の、長期的な収入源として非常に重要になります。
障害年金の種類|障害基礎年金と障害厚生年金
障害年金には、初診日にどの年金制度に加入していたかによって2つの種類があります。
| 種類 | 対象者(初診日に加入していた年金) | 障害の等級 |
|---|---|---|
| 障害基礎年金 | 国民年金(自営業、学生、無職など) | 1級・2級 |
| 障害厚生年金 | 厚生年金(会社員、公務員など) | 1級・2級・3級、障害手当金 |
会社員だった方は、障害厚生年金に該当します。障害厚生年金は、障害基礎年金に上乗せして支給されるため、国民年金のみに加入していた方よりも手厚い保障が受けられます。
障害年金の受給額|等級や加入状況によって異なる
支給額は、障害の程度(等級)や年金の加入状況、家族構成などによって決まります。
障害基礎年金の支給額目安(令和6年度)
- 1級: 年額 1,020,000円 + 子の加算
- 2級: 年額 816,000円 + 子の加算
※子の加算:18歳年度末までの子(または20歳未満で障害等級1級・2級の子)がいる場合に加算されます。
障害厚生年金の支給額目安
障害厚生年金は、これまでの給与(標準報酬月額)や厚生年金の加入期間によって計算されるため、個人差が大きくなります。
- 1級: (報酬比例の年金額) × 1.25 + 配偶者の加給年金額
- 2級: (報酬比例の年金額) + 配偶者の加給年金額
- 3級: (報酬比例の年金額) ※最低保障額あり
2級以上に該当すれば、障害基礎年金も合わせて支給されます。
障害年金の申請条件|初診日と保険料納付要件
障害年金を申請するには、主に以下の条件を満たす必要があります。
- 初診日要件: 障害の原因となったうつ病で、初めて医師の診療を受けた日(初診日)が特定できること。
- 保険料納付要件: 初診日の前日において、一定期間以上、国民年金や厚生年金の保険料を納付していること。(免除期間も含む)
- 障害状態要件: 障害認定日(原則として初診日から1年6ヶ月が経過した日)の時点で、国が定める障害等級に該当する状態であること。
特に「初診日の証明」は非常に重要です。 どの病院に初めてかかったかを証明する書類が必要になるため、心当たりのある方は記録を確認しておきましょう。
障害年金の申請手続きとタイミング
障害年金の申請は、原則として障害認定日(初診日から1年6ヶ月後)から可能になります。手続きは複雑で、診断書や病歴・就労状況等申立書など、多くの書類を準備する必要があります。
書類の書き方一つで結果が左右されることもあるため、年金事務所や市区町村の年金窓口に相談したり、社会保険労務士などの専門家に依頼したりすることも有効な手段です。
失業保険(雇用保険)|うつ病で退職した場合
失業保険(正式名称:雇用保険の基本手当)は、会社を辞めた人が安定した生活を送りつつ、1日も早く再就職するための支援制度です。うつ病で退職した場合も、条件を満たせば受給できます。
失業保険の受給条件|うつ病の場合は「特定理由離職者」に
失業保険を受給するための大原則は「働く意思と能力があるにもかかわらず、職業に就くことができない状態」であることです。
うつ病で療養が必要な間は「働ける状態」ではないため、原則として受給できません。しかし、体調が回復し、医師から就労可能の許可が出れば申請できます。
また、自己都合で退職した場合でも、うつ病などの正当な理由がある場合は「特定理由離職者」として認定されることがあります。特定理由離職者になると、通常の自己都合退職者に比べて給付制限期間(2ヶ月)がなく、給付日数も手厚くなるメリットがあります。
失業保険の給付日数と金額
給付される金額(基本手当日額)は、離職前の6ヶ月間の賃金をもとに計算され、おおよそ離職前賃金の50%〜80%となります。
給付日数は、年齢、雇用保険の被保険者であった期間、離職理由によって決まります。特定理由離職者の場合、90日〜330日の間で給付が受けられます。
失業保険の申請手続き|ハローワークで行う
手続きは、お住まいの地域を管轄するハローワークで行います。離職票や本人確認書類、医師の意見書などを持参して求職の申し込みを行い、受給資格の決定を受けます。
なお、退職後すぐに働けない状態の場合は、受給期間の延長申請ができます。本来、失業保険は離職日の翌日から1年間しか受給できませんが、病気などで働けない場合は最長で3年間延長し、合計4年以内に受給を終えればよいことになっています。この手続きを忘れないようにしましょう。
失業保険と傷病手当金の関係|同時受給は不可
ここで非常に重要な注意点があります。
失業保険と傷病手当金は、同時に受け取ることはできません。
- 失業保険: 「働ける状態」の人が対象
- 傷病手当金: 「働けない状態」の人が対象
目的が正反対であるため、両方を同時にもらうことは制度上不可能です。退職後のご自身の体調に合わせて、どちらの制度を利用するかを判断する必要があります。
自立支援医療制度(精神通院医療)|医療費の負担を軽減

自立支援医療制度は、収入を得るための制度ではなく、うつ病などの精神疾患の治療にかかる医療費の自己負担を軽減するための制度です。
自立支援医療制度の対象者とメリット
うつ病などの精神疾患で、通院による継続的な治療が必要な方が対象です。この制度を利用する最大のメリットは、以下の2点です。
- 医療費の自己負担が原則1割になる
通常、公的医療保険での自己負担は3割ですが、この制度を使うと1割に軽減されます。 - 世帯の所得に応じて自己負担額に上限が設けられる
所得に応じて月々の自己負担上限額が設定されるため、高額な治療が続いても負担が一定額に抑えられます。
診察代だけでなく、処方される薬代も対象となります。長期的な通院が必要なうつ病治療において、経済的な負担を大きく減らすことができます。
自立支援医療制度の申請方法
申請は、お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口で行います。
必要な書類は以下の通りです。
- 申請書
- 医師の診断書(自立支援医療用)
- 健康保険証の写し
- 世帯の所得が確認できる書類
- マイナンバーが確認できる書類
申請が認められると「自立支援医療受給者証」が交付されます。医療機関や薬局の窓口で健康保険証と一緒に提示することで、負担が軽減されます。
生活保護制度|最後のセーフティネット
生活保護は、日本国憲法第25条に規定する理念に基づき、資産や能力などあらゆるものを活用してもなお生活に困窮する方に対し、国が最低限度の生活を保障し、自立を助けるための制度です。
生活保護の受給条件とは
生活保護は、以下の条件を満たす場合に受給できます。
- 資産の活用: 預貯金、生命保険、土地、家屋、自動車など、活用できる資産はまず生活費に充てる必要があります。(一定の条件で保有が認められる場合もあります)
- 能力の活用: 働くことが可能な方は、その能力に応じて働く必要があります。うつ病で就労困難な場合は、この限りではありません。
- あらゆるものの活用: 年金や手当など、他の制度で給付を受けられる場合は、それらを優先して活用する必要があります。
- 扶養義務者の扶養: 親族などから援助を受けられる場合は、まずそちらを優先します。
これらの条件をすべて満たしても、国が定める最低生活費に収入が満たない場合に、その不足分が保護費として支給されます。
生活保護の申請窓口と相談先
相談・申請の窓口は、お住まいの地域を管轄する福祉事務所です。福祉事務所にいるケースワーカーに現在の状況を相談し、申請手続きを行います。うつ病で働くことができず、本当に生活に困っている場合は、ためらわずに相談することが大切です。
その他、うつ病で仕事ができない時に使える制度
これまで紹介した主要な制度のほかにも、状況に応じて利用できる制度があります。
生活福祉資金貸付制度|一時的にお金を借りる
低所得者世帯や障害者世帯などを対象に、市区町村の社会福祉協議会が窓口となり、生活資金などを低金利または無利子で貸し付ける制度です。あくまで「貸付」であり返済が必要ですが、緊急的にまとまったお金が必要になった場合に頼りになります。
税金・国民健康保険料の減免・猶予制度
うつ病による休職や退職で収入が大幅に減少した場合、住民税や国民健康保険料の支払いが困難になることがあります。このような場合、市区町村の窓口に相談することで、保険料の減免(減額・免除)や、支払いの猶予(先延ばし)が認められる場合があります。滞納してしまう前に、必ず役所に相談しましょう。
うつ病とお金に関するよくある質問
うつ病の国の補助金はいくらですか?
「うつ病の補助金」という単一の制度はありません。本記事で解説した「傷病手当金」「障害年金」「失業保険」などが、実質的な補助金(手当)に該当します。 金額は、個人の収入や状況によって大きく異なり、傷病手当金なら給与の約3分の2、障害年金なら等級に応じて年額80万円〜、失業保険なら離職前賃金の5〜8割が目安となります。
うつ病で無職になった場合、手当をもらえるの?
はい、もらえます。まず、退職後すぐに働けない場合は「傷病手当金の継続給付」や「障害年金」が考えられます。体調が回復して求職活動を始める段階になったら「失業保険」を受給できます。また、生活全般が困窮している場合は「生活保護」の対象となる可能性があります。
働けない人がもらえるお金はありますか?
うつ病などの病気が原因で働けない場合、利用できる制度として主に「傷病手当金」と「障害年金」があります。会社の健康保険に加入中(または退職後継続給付)で、療養期間が1年6ヶ月以内であれば傷病手当金、療養が長期化している場合は障害年金が主な収入源となります。
うつ病で一人暮らし、お金がなく生活できません
まずは一人で抱え込まず、すぐに相談することが大切です。
- 公的制度の申請: 本記事で紹介した傷病手当金、障害年金、自立支援医療制度などを速やかに申請しましょう。
- 公的な相談窓口へ: お住まいの市区町村の福祉担当窓口や社会福祉協議会に相談してください。生活保護や生活福祉資金貸付制度など、あなたの状況に合った支援を一緒に考えてくれます。
- 家族や信頼できる人へ相談: 可能であれば、経済的な状況や精神的なつらさを家族や友人に打ち明けることも重要です。
うつ病でお金の管理ができない時の対策は?
うつ病の症状として、判断力や集中力が低下し、お金の管理が難しくなることがあります。対策としては、以下のような方法が考えられます。
- 家族に相談・協力してもらう: 最も身近で頼りになる方法です。家計の管理を一時的にお願いできないか相談してみましょう。
- 固定費の見直し: 家計簿アプリなどを使い、不要なサブスクリプションサービスを解約するなど、負担を減らす工夫をします。
- 社会福祉協議会の「日常生活自立支援事業」を利用する: 金銭管理に不安がある方に対して、福祉サービスの利用援助や日常的な金銭管理の支援を行ってくれるサービスです。
- 専門家への相談: 状況によっては、弁護士や司法書士、ファイナンシャルプランナーへの相談も有効です。
まとめ:一人で抱え込まず、まずは公的な相談窓口へ
うつ病で仕事ができなくなると、将来への不安から焦りや孤独を感じやすくなります。しかし、この記事で見てきたように、あなたを経済的に支えるための公的なセーフティネットは、いくつも用意されています。
大切なのは、これらの制度を知り、適切なタイミングで行動を起こすことです。体調がすぐれない中で手続きを進めるのは大変な作業ですが、一つひとつ進めていくことで、お金の不安は確実に和らぎます。
もし、どの制度を使えばいいか分からない、手続きが難しいと感じたら、決して一人で悩まないでください。お住まいの市区町村の障害福祉課や保健所、社会福祉協議会、年金事務所など、専門の相談窓口があります。まずは電話一本でも構いません。専門家に相談することで、あなたの状況に最適な道筋が見えてくるはずです。
経済的な基盤を整えることは、安心して治療に専念するための第一歩です。利用できる制度を最大限に活用し、心と体を休める時間をしっかりと確保してください。
免責事項
本記事で提供する情報は、一般的な情報提供を目的としており、個別の状況に対する法的なアドバイスや医学的な診断を代替するものではありません。各制度の利用にあたっては、必ず最新の情報を公式サイトでご確認いただくか、管轄の行政機関や専門家にご相談ください。

