仕事を辞めるという大きな決断を前に、多くの人が頭を悩ませるのが「お金」の問題です。「退職金や失業手当はいくらもらえるの?」「税金や社会保険の手続きはどうすればいい?」といった疑問や不安は尽きません。しかし、事前に知識をつけ、計画的に準備を進めれば、お金の不安は大きく軽減できます。
この記事では、仕事を辞める前に必ず知っておきたいお金の知識を「もらえるお金」「支払うお金」「やるべき準備」の3つの視点から網羅的に解説します。これを読めば、安心して次のキャリアへ踏み出せるはずです。
退職でもらえるお金一覧|条件・手続き・いつもらえるかを解説
退職は収入が途絶えるだけでなく、会社から様々なお金を受け取る機会でもあります。自分がどの制度の対象になるのか、いくらもらえるのかを事前に把握しておくことが、退職後の生活設計の第一歩です。
退職金(退職所得)|就業規則を確認し相場と計算方法を知る
退職金は、長年の勤務に対する功労報奨的な意味合いを持つ重要な収入源です。しかし、法律で支払いが義務付けられているわけではないため、まずはご自身の会社に退職金制度があるかを確認する必要があります。
退職金制度の有無を確認する方法
退職金制度の有無や計算方法は、会社の就業規則や退職金規程に明記されています。これらの書類は、社内ポータルサイトで閲覧できたり、人事部や総務部に依頼すれば開示してもらえたりするのが一般的です。入社時の労働契約書に記載がある場合もあります。まずはこれらの書類を確認し、「退職金の支給条件(勤続年数など)」「計算方法」「支給時期」を把握しましょう。
退職金にかかる税金と「退職所得控除」
退職金は給与とは別に「退職所得」として扱われ、税制面で大きく優遇されています。その中心となるのが「退職所得控除」です。この控除額が大きいため、退職金にかかる所得税や住民税は大幅に軽減されます。
| 勤続年数 | 退職所得控除額の計算式 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円 × 勤続年数 (※80万円に満たない場合は80万円) |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 × (勤続年数 – 20年) |
課税対象となる退職所得は以下の計算式で算出されます。
(収入金額(退職金) - 退職所得控除額) × 1/2 = 課税退職所得金額
例えば、勤続30年で退職金が1,500万円の場合、退職所得控除額は「800万円 + 70万円 × (30年 – 20年) = 1,500万円」となります。この場合、課税退職所得金額は0円となり、所得税・住民税はかかりません。退職時に会社へ「退職所得の受給に関する申告書」を提出することで、この控除が適用され、適切な金額が源泉徴収されます。
退職金はいつ振り込まれる?
退職金の振り込み時期は、会社の規程によって異なりますが、一般的には退職日から1ヶ月〜2ヶ月後に支払われることが多いようです。具体的な支給日については、就業規則を確認するか、人事部に直接問い合わせておくと安心です。
失業手当(雇用保険の基本手当)|受給条件と金額シミュレーション
失業手当(正式名称:雇用保険の基本手当)は、退職後の生活を支える非常に重要な制度です。再就職までの間の生活費を補助し、安心して求職活動に専念することを目的としています。
失業手当の受給条件|自己都合と会社都合の違い
失業手当を受給するには、以下の条件を満たす必要があります。
- ハローワークに来所し、求職の申込みを行い、就職しようとする積極的な意思があること
- 離職の日以前2年間に、被保険者期間が通算して12か月以上あること(倒産・解雇等による離職の場合は、離職の日以前1年間に被保険者期間が通算して6か月以上)
特に重要なのが、退職理由が「自己都合」か「会社都合」かという点です。これにより、手当の受給開始時期や給付日数に大きな違いが生まれます。
| 項目 | 自己都合退職 | 会社都合退職(特定受給資格者) |
|---|---|---|
| 待期期間 | 7日間 | 7日間 |
| 給付制限 | あり(2ヶ月または3ヶ月) | なし |
| 給付日数 | 90日~150日 | 90日~330日 |
| 受給開始目安 | 申請から約2ヶ月~3ヶ月後 | 申請から約1ヶ月後 |
会社都合退職(倒産、解雇など)の方が、より手厚く保護される仕組みになっています。
失業手当はいくらもらえる?手取り20万円の場合の計算例
失業手当として1日あたりに支給される金額を「基本手当日額」と呼びます。これは、原則として離職直前の6ヶ月間に支払われた賃金の合計 ÷ 180で算出した「賃金日額」に、年齢や賃金額に応じた給付率(約50%~80%)を乗じて決定されます。
【シミュレーション】月給25万円(手取り約20万円)、30歳、自己都合退職、勤続8年の場合
- 賃金日額の算出:
- 月給25万円 × 6ヶ月 = 150万円
- 150万円 ÷ 180日 = 約8,333円
- 基本手当日額の算出:
- 賃金日額が8,333円の場合、給付率は約60%〜80%の範囲で計算されますが、ここでは仮に60%とします。
- 8,333円 × 60% = 約5,000円(上限額あり)
- 総受給額の目安:
- 基本手当日額 約5,000円 × 給付日数 90日 = 約450,000円
これはあくまで目安です。正確な金額はハローワークで離職票を提出した際に決定されます。
失業手当の申請手続きと受給までの流れ
失業手当の受給は、自動的に始まるわけではなく、自分で手続きを行う必要があります。
- 会社から「離職票」を受け取る: 退職後、約10日〜2週間で自宅に郵送されてきます。
- ハローワークで求職の申込み: 住所地を管轄するハローワークへ行き、離職票などを提出し、求職の申込みを行います。
- 待期期間(7日間): 求職申込みをした日から7日間は、失業手当が支給されない期間です。
- 雇用保険受給者初回説明会に参加: 指定された日時に説明会に参加します。
- 失業の認定: 原則として4週間に1度、指定された日にハローワークへ行き、求職活動の状況を報告し、「失業の認定」を受けます。
- 受給: 失業の認定を受けると、通常5営業日以内に指定した金融機関の口座に手当が振り込まれます。
傷病手当金|病気やケガで退職した場合
業務外の病気やケガが原因で会社を休み、退職に至る場合は、健康保険の「傷病手当金」を利用できる可能性があります。
退職後も傷病手当金をもらうための条件
退職後も継続して傷病手当金を受給するには、以下の全ての条件を満たす必要があります。
- 退職日までに健康保険の被保険者期間が継続して1年以上あること。
- 退職日に、傷病手当金を受給しているか、または受給できる状態(療養のために休んでおり、給与が支払われていない)であること。
- 退職日以降も、引き続き療養のために働くことができない状態であること。
重要なのは「退職日に出勤しないこと」です。最後の挨拶のために退職日に半日でも出勤してしまうと、継続給付の条件から外れてしまうため注意が必要です。
傷病手当金と失業手当は同時に受給できない
傷病手当金は「働けない状態」の人のための手当、失業手当は「働ける状態」の人のための手当です。目的が異なるため、この2つを同時に受給することはできません。
まずは傷病手当金で療養に専念し、働ける状態に回復してから、失業手当の受給期間延長手続きを行い、求職活動を始めるのが一般的な流れとなります。
その他の給付金・手当|未払い賃金や財形貯蓄
退職金や公的な手当以外にも、受け取れるお金がないか確認しましょう。
未払いの給料・残業代・賞与の請求
退職時に未払いの給料や残業代、あるいは支給条件を満たしている賞与があれば、会社に請求する権利があります。まずは給与明細やタイムカードなどの証拠を基に会社と話し合い、それでも支払われない場合は、労働基準監督署に相談することも検討しましょう。
財形貯蓄制度の解約または移換手続き
会社で財形貯蓄制度を利用していた場合、退職時には解約するか、転職先に同じ制度があれば移換する手続きが必要です。解約すると積立金が払い戻されますが、目的外の解約の場合は利子に課税されることがあります。手続きについては、会社の担当部署に確認しましょう。
退職後に支払うお金|税金・社会保険の切り替え手続き
退職後は収入が減る一方で、これまで給与から天引きされていた税金や社会保険料を自分で納める必要が出てきます。手続きが遅れると延滞金が発生することもあるため、速やかに切り替えを行いましょう。
住民税|支払い方法の変更を忘れずに
住民税は、前年1年間の所得に対して課税される税金です。そのため、退職して収入がなくなったとしても、前年に所得があれば支払い義務が発生します。在職中は給与から天引き(特別徴収)されていましたが、退職後は自分で納付(普通徴収)する方法に切り替わります。
退職時期で変わる住民税の支払い方法
退職する月によって、最後の給与から天引きされる金額やその後の支払い方法が異なります。
| 退職時期 | 支払い方法 |
|---|---|
| 1月1日~5月31日 | その年の5月分までの住民税が、最後の給与や退職金から一括で天引きされます。 |
| 6月1日~12月31日 | 退職した月の分までは給与から天引きされます。翌月以降の分は、後日送られてくる納付書を使って自分で納付(普通徴収)するか、希望すれば最後の給与から一括で天引きしてもらうことも可能です。 |
普通徴収への切り替えと納付スケジュール
普通徴収に切り替わると、退職後に市区町村から自宅へ納税通知書と納付書が送られてきます。通常、年4回(6月、8月、10月、翌年1月)に分けて納付しますが、一括での納付も可能です。納付書が届いたら、期限内に金融機関やコンビニエンスストアで支払いましょう。
所得税|年末調整と確定申告
所得税は、その年の所得に対してかかる税金です。在職中は毎月の給与から概算額が源泉徴収され、年末調整で精算されますが、退職後は状況に応じて自分で手続きが必要になります。
退職金にかかる所得税の源泉徴収
前述の通り、退職時に「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出していれば、適切な所得税額が退職金から源泉徴収されます。この場合、退職金については確定申告の必要はありません。
年内に再就職しない場合は確定申告が必要
退職した年に再就職しなかった場合、年末調整が行われないため、自分で確定申告を行う必要があります。確定申告をすることで、毎月の給与から天引きされていた所得税(源泉徴収税額)が、実際の年収に基づいて再計算されます。多くの場合、払いすぎていた税金が還付されるため、忘れずに行いましょう。生命保険料控除や医療費控除などもあれば、併せて申告できます。
健康保険|3つの選択肢と手続き方法
退職すると、会社の健康保険の資格を失います。空白期間ができないよう、速やかにいずれかの公的医療保険に加入しなければなりません。選択肢は主に3つあります。
| 選択肢 | メリット | デメリット | こんな人におすすめ |
|---|---|---|---|
| ① 会社の健康保険を任意継続 | ・扶養家族の保険料負担がない ・給付内容が変わらない |
・保険料が全額自己負担(約2倍) ・最長2年間の期限あり |
・扶養家族が多い人 ・国民健康保険料が高額になる人 |
| ② 国民健康保険に加入 | ・所得に応じて保険料が減免される場合がある | ・扶養の概念がなく、家族一人ひとりに保険料がかかる ・前年の所得を基に計算されるため高額になることも |
・任意継続の保険料より安くなる人 ・フリーランスとして独立する人 |
| ③ 家族の扶養に入る | ・保険料の自己負担がなくなる | ・被扶養者になるための収入要件がある(年収130万円未満など) | ・配偶者や親族の扶養要件を満たせる人 |
どの選択肢が最も負担が少ないかは、個人の所得や家族構成によって異なります。まずは市区町村の役所で国民健康保険料の概算額を確認し、任意継続の保険料と比較検討することをおすすめします。手続きは、退職日の翌日から14日〜20日以内に行う必要があります。
年金|厚生年金から国民年金への切り替え手続き
会社員は厚生年金(第2号被保険者)に加入していますが、退職して自営業者や無職になった場合は、国民年金(第1号被保険者)への切り替えが必要です。退職日の翌日から14日以内に、お住まいの市区町村の役場の年金窓口で手続きを行いましょう。手続きには年金手帳または基礎年金番号通知書、退職日がわかる書類(離職票など)が必要です。
なお、配偶者の扶養に入る(第3号被保険者になる)場合は、配偶者の勤務先を通じて手続きを行います。
仕事を辞める前に絶対にしておくべきお金のこと【在職中が有利】
退職後の手続きも重要ですが、実は「在職中」という社会的信用を活かしてできる準備があります。辞めてからではハードルが上がることもあるため、計画的に進めておきましょう。
クレジットカードの新規作成・ステータス更新
退職を考えているなら、在職中にクレジットカードを1枚作っておくことを強くおすすめします。
退職後は審査に通りにくくなる理由
クレジットカードの審査では、「安定した継続収入」が最も重要な項目の一つです。退職して無職になると、この条件を満たせなくなり、審査に通るのが非常に難しくなります。転職先が決まっていても、勤続年数がリセットされるため、入社直後は審査に通りにくい傾向があります。年会費無料のカードでも構わないので、社会的信用があるうちに申し込んでおきましょう。また、利用限度額の増額やゴールドカードへの切り替えなども、在職中が有利です。
各種ローン(住宅ローン・自動車ローン等)の契約
近い将来、住宅や車の購入を考えている場合、ローン契約は必ず在職中に済ませておきましょう。
安定収入がある在職中にローンを申し込むメリット
ローン審査はクレジットカードよりも厳しく、勤続年数や年収がシビアに評価されます。特に住宅ローンのような高額で長期にわたる契約は、在職中であることがほぼ必須条件となります。退職後では、たとえ十分な貯蓄があったとしても、安定収入の証明ができないため、審査の土俵にすら上がれない可能性があります。大きな買い物は、人生設計と合わせて退職前に計画的に進めることが賢明です。
資産状況の把握と生活費のシミュレーション
退職後の生活を安心して送るために、最も重要なのが現状把握と資金計画です。感情的に退職を決めてしまう前に、冷静に数字と向き合いましょう。
仕事を辞めるとき、いくら貯金があれば安心か?
一概には言えませんが、一般的には「生活費の3ヶ月〜6ヶ月分」が当面の生活資金の目安とされています。これは、失業手当が支給されるまでの期間(自己都合の場合約2〜3ヶ月)を無収入で乗り切るため、また、想定外の出費に備えるための資金です。転職活動が長引く可能性も考慮し、余裕を持って準備しておくと精神的な安定につながります。
退職後の収支計画を立てる
まず、現在の預貯金、株式などの資産をすべてリストアップし、総額を把握します。次に、退職後の「収入」と「支出」をシミュレーションします。
- 収入の部: 退職金、失業手当、その他(配偶者の収入など)
- 支出の部:
- 固定費: 家賃、光熱費、通信費、保険料、税金・社会保険料
- 変動費: 食費、日用品費、交際費、趣味・娯楽費
特に、これまで給与天引きだった住民税や社会保険料を支出に含めることを忘れないようにしましょう。この収支計画を基に、「手持ちの貯蓄と退職後の収入で、何ヶ月間生活できるか」を計算することで、安心して転職活動に臨むことができます。
仕事を辞めるお金に関するよくある質問(FAQ)
Q. 退職したら200万円もらえる制度はありますか?
A. 「退職すれば誰でも200万円もらえる」という制度はありません。しかし、特定の条件を満たすことで、結果的に200万円近い給付を受けられる可能性はあります。例えば、厚生労働大臣が指定する専門的・実践的な教育訓練講座を受講する場合に利用できる「専門実践教育訓練給付金」は、条件を満たせば最大で受講費用の70%(年間上限56万円、最長4年で224万円)が支給されます。これはあくまで特定の講座を受講する人のための制度であり、一般的な退職者が対象となるものではありません。
Q. 退職給付金と失業手当の違いは何ですか?
A. この2つは全く異なるものです。
- 退職給付金(退職金): 会社が独自に定める制度に基づき、退職する従業員に対して支払うお金です。長年の勤務に対する報奨的な意味合いがあります。
- 失業手当: 国の雇用保険制度に基づき、失業中の人が生活に困窮することなく再就職活動を行えるように支給されるお金です。支給元は会社ではなく、国(ハローワーク)です。
Q. 会社都合退職と自己都合退職で、もらえるお金は変わりますか?
A. はい、大きく変わる可能性があります。最も影響が大きいのは失業手当です。会社都合退職の場合、自己都合に比べて給付制限期間がなく、給付日数も長くなるため、総受給額が多くなります。また、会社の退職金規程によっては、会社都合退職者に対して退職金を上乗せして支給するケースもあります。
Q. 退職金の申請は自分でする必要がありますか?
A. 通常、退職金制度がある会社では、退職が確定した時点で人事部などから手続きに関する案内があります。しかし、税金の控除を受けるために必要な「退職所得の受給に関する申告書」の提出など、自分で行うべき手続きも含まれます。案内がない場合でも、就業規則を確認の上、不明な点は担当部署に問い合わせ、手続きに漏れがないようにしましょう。

